短編 | ナノ


▼ 五伏


※モブオリジナルストレインが出てきます
※赤小説のネタバレが少しだけあります





最近五島を見ると調子が狂う。というか目があうとすぐにちょっかいをかけられ思ったとおりに事が進まないのだ。しかも仕事には影響しない程度に副長の目を盗んでひょこっと現れるものだからタチが悪い。

「お前なんなんだよ、俺に何か用があんのか?」
「いえ、別に伏見さんに用なんてあるわけないじゃないですか」

ぐ、と怒りを抑える。この返し方はまるで俺が美咲に喧嘩売りに行く時のセリフじゃないか。馬鹿にしてるのか、それとも素なのか。
終始ニコニコヘラヘラしやがって考えが読めねーんだよ、クソ


気色悪く笑う五島を睨みつけ、無視して執務室へ向かう。さっき室長に呼ばれたのだ。五島がついてくることは流石になく、持ち場に戻ったようだ。残念なような、ホッとしたような…いや、残念ではない何だそれどうした俺

「チッ……」







「五島お前どうしたの、室長は諦めて伏見さんにしたの?命知らずだな、お前」

キーボードをカタカタと素早く打ちながら目は画面に向けたまま器用に布施が話し掛けてきた。僕も入院中の溜まった仕事を片付けている途中だ。あれから数日経っているのでまあまあ片付いてはいるのだが伏見さんにちょっかいをかけに行っているせいで少し手こずっていた。

「んふふ、何言ってんの布施」
「いや、言葉の通りだけど」
「室長はそんなんじゃないって言ってるでしょ?でも、そうだねぇ、伏見さんの件は当たってるかな」
「うわ、マジかよ」

ドン引く布施の顔にガムでもつけてやりたい。お前だって伏見さんのあのツンデレ受けてみろ、ツンデレ属性が無い僕だって落ちたんだぞ

「まあ、お前飽きっぽいし今だけかもな。とっとと目ぇ覚ませ」
「酷い言い草だねぇ…確かに僕は飽きっぽいけど、伏見さんはなんだかハマるとそのぶん底無し沼みたいに抜け出せなくなりそうというか、夢中になれそうだと思うんだよね。」
「ふーん。まあお前の勝手だし、好きにすれば?まあ相談には乗らねーけど。上司と友達の色恋沙汰なんて聞きたくねーし」
「ふふ、間違えても布施なんかに相談しないよ」
「…てめえ」

怖い顔で凝視してきた布施から逃げるように書類のコピーをするため席を立った。でもあんなふうに思った事を赤裸々に話す布施の性格は嫌いじゃない。

ふとこの間の伏見さんを思い出す。やはり何度思い出しても赤面する伏見さんの顔は可愛い。あの反応、少し脈ありだと自惚れてもいいのだろうか……頬が緩んできたのを必死で隠しながら行き場のない萌えをコピー機へ向け、バシリと叩いた。




室長からの命令でまたこの鎮目町に来るハメになった。まあ俺にとっては美咲と会う絶好の機会だから別に嫌ではないのだが。問題はその仕事の内容だ。最近吠舞羅と抗争しているチンピラの中にストレインがいるらしく、そのストレインの情報を掴むまで戻ってくるなというのだ。それか生け捕りしろと。にしては与えられた情報が少なすぎる。相変わらず無茶苦茶言いやがる。

とりあえず吠舞羅の野郎たちが集まりそうな場所に潜伏することにした。そこにそのストレインが来るかもしれない。願わくば美咲がそのストレインと殺りあってズタボロになったのを見たい気もする。んでその無様な姿を見たあと俺がストレインを生け捕りする。最高の筋書きだ。
思わず口角が上がる。すると願っていたことが起きてしまった。美咲がよくスケボーの練習をしていた場所の近くの路地裏から美咲と鎌本が出てきて、そしてそれを塞ぐように立ちはだかる黒髪に赤と金のメッシュが入った細い目で身長170前後で灰のスーツを着た男。間違いない。あいつが俺の探しているストレインだ。

しはらく様子をみるために隠れて観察する。こちらからは声もまあまあ聞こえる位置でやりやすい。馬鹿みたいに声を張り上げて大きい身振りでストレインと話す美咲。大方吠舞羅のことを馬鹿にされて感情的になっているのだろう。
あ、今美咲がストレインを殴った。殴り返すのかと思えば相手は銃を取り出してきた。堂々と銃なんて構えやがって。しかし美咲にそんな攻撃きくはずがなく、すぐに炎の壁で銃弾を弾いてストレインに一撃食らわせたあとそのまま突っ伏してしまった。え、弱すぎないか?

「…なーんだ、大したことねーじゃん」

思わずボソリと呟いてしまう。ストレインの回収に向かおうとしたその時、後ろから誰かの気配を感じ、ズサ、と後退る。そしてなにか振りかざしたのを感じ、サーベルの鞘で防御する。

「…やるね」
「お前、誰だ。あのストレインの仲間か」
「まあ、そんなとこ」
「…伏見、緊急抜刀」

何故か言わないと罰せられたりする形式とかいうセリフをきちんと言ったあと、相手を突き返してサーベルで相手を突く。それを難なくかわされ、蹴りが飛んできた。それを俺もかわすが次から次へと拳や蹴りが飛んで来る。早い攻撃に防戦一方で埒が明かない。とりあえずこの薄暗い場所を抜けようと後ろへ徐々に下がる。願わくば美咲が去っていてストレインが倒れたままなことを願って。
だがその願いも虚しく、ストレインは泡を吹いて倒れたままではあるが美咲はまだそこにいて、思わず舌打ちした。

「あれ、猿比古…?」

気付かれた。クソめんどくせえ。早くどっか行けよ今はお前にちょっかい出してる暇はねーんだよ、それに、手を貸すとか吐き気のするようなことを言いそうだ。

「あれ、君青服なのに吠舞羅なんかに知り合いがいるの?」
「…黙れ。殺すぞ」

こんなザコを相手にしている暇はないのに、なかなか片付かない。こいつ、すばしっこいし頭のいい動きをする。まるで五島みたいだ。こんな時、あいつならどうやったらくたばるか。
考えても思いつかない。あいつがくたばったことなんてあのデパートの一件しか見た事がない。あの時足を………足、そうか、

「何考えてるの?余裕だね?」
「…っ……!!」
「猿!」
「っ来るな!邪魔すんじゃねえ!」

油断していたところで少し奴の持っているナイフで腕を刺されてしまった。だがやっとこいつの仕留め方を思いついた。なのにやはり美咲が加勢しに来た。ありがた迷惑だ。

「でも…!」
「俺は裏切り者だ!俺に手なんか貸すな」
「そうですよ、八田さん。行きましょうよ」
「っ…!」
「いつまでお喋りしてるの?君の相手は俺だよ」

回し蹴りを間一髪で避けて相手から距離をとる。そして横にある壁をダン、と踏みつけ相手の後ろに回りすぐさま足首と太ももの辺りにナイフを投げつける。仕留めた。

「っぐぁ…!」
「良いザマだな、ザコが」

抵抗する手を乱暴に掴み手錠をかける。そしてそのあと美咲がボコったストレインにも手錠をかけ、淡島副長に連絡する。

「…はい、ストレインとその関係者と思われるゴロツキを一匹…いえ、1人、計2名を確保しました。…はい、わかりました」

話し終えてもまだ美咲と鎌本が残っていて、なんでいるんだとまた苛立ちがつのる。

「なんだよ、お前らまだいたのか」
「…猿、俺はお前のこと、」
「…うぜーんだよ」
「え?」
「お前そのあと仲間だと思ってるーとか続けるつもりか?馬鹿だな美咲ぃ?俺は裏切り者だ。なんでそんな奴をいつまでも仲間だと思う義理があるんだ?」
「…っ」
「いい加減お前らの仲間ごっこには嫌気が差してるんだよ、気分悪いから消えろ」

そう俺が言い放ったあとの美咲の顔と言ったら何とも言えない。ゾクゾクする。俺をすごい形相で睨んだあと、やっと背を向けてお仲間たちの元に戻っていった。


そう、俺に仲間なんか必要ない。そんなチンケなものに囚われて生きるなんて御免だ。
思い返してみて、思った。俺は今までセプター4の連中に、特にあいつに、少し、心を許しすぎていた、馴れ合いすぎていた。考えてみればあいつに色々付き合う義理もない。
失いかけてた自分を思い出した。
人を頼って生きることなど、絆を振りかざして生きることなど、お互いを理解し合うことなど、無意味でしかないのだ。人は所詮1人でしか生きられない。
まだ俺が吠舞羅だったころ、美咲と共にセプター4と戦ったあの日のことを思い出す。思えばあの日からだったのだ。そうしてまた意思が強固なものになる。

俺は、誰かと分かち合って生きることなど、無理なのだと。





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